「世界の音楽療法の情報」 (2015年 3月10日)

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「世界の音楽療法の情報」 (2015年 3月10日)
“Information of music therapy in the World” (March 10, 2015)

伊賀音楽療法研究会メールマガジン3月号(No.164)

[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(106)

皆さんこんにちは。音楽療法士の早川佳子と申します。私は株式会社ケアサービスにて常勤音楽療法士として勤務しております。音楽療法セッションは、主にデイサービスセンターで集団音楽療法を実施しています。今回は高齢者のお客様(クライアント)とのコミュニケーションについて、また実際に私達が行っている音楽療法のセッションの中で、クライアントに対する個別アプローチに焦点を当て、集団セッションの中でもどのようにお一人お一人と向かい合いセラピーを実施しているか、一つの事例を取り上げて書いてみたいと思います。

まずは高齢者のお客様とのコミュニケーションについて、取り上げてみます。高齢者とのコミュニケーションにおいて、どんな難しさがあるでしょうか。スムーズに会話ができないときは、耳がよく聞こえない、目がよく見えない、認知症があるかもしれない、といったことや、情報がうまく入っていないのかもしれない、こちらの意図することを理解して頂けなかったのかもしれないなど、色々な要因が考えられます。ここでコミュニケーションのコツについて取り上げてみます。小児の言語発達訓練の評価方法によりますと、コミュニケーションのコツは以下の三点が挙げられます。
1.基本姿勢(エネルギー)
2.非言語(プロセス)
3.会話内容(コンテンツ)

これらを高齢者とのコミュニケーションに焦点を当てて見ていくと、「基本姿勢」は、人生の大先輩であるその方への敬意であり、その方が生きてこられた時代背景や価値観を理解する姿勢であると言えます。「非言語」は、話すペースであり、その方のお話を傾聴することです。高齢者は会話をしている相手の声と周りの音を聞き分けるのが困難になってくると言われているので、周囲を静かな環境にすることや、大きく低めの声でゆっくり話し、相手が聞き取りやすいようにすることが大切です。そして「会話内容」はシンプルに、その方の好きなことや得意なこと等、話しやすい話題を提供します。何回も同じ話が出ても、初めてのつもりで聞いて差し上げるなど、その方のペースに合わせるようにします。認知症になっても今までのアイデンティティはなくならないので、尊敬の念を忘れず、生活の質を大切にし、その方が大事にしていること、生きがい、やりがいを尊重することが重要です。相手の方がこちらの言ったことをどのくらい理解されているか知りたいときは、医師がよく使うteach backという方法を用いるとよいようです。こちらが言ったことをその方に言って頂くのです。ある老年医学の医師が仰っていましたが、高齢者の患者さんはこちらの言ったことの半分も理解されていないので、じっくり根気よくお話をし、「今私がお話したことを、教えていただけますか?」と患者さんに投げかけていらっしゃるそうです。

次に昨年12月のメールマガジンでご紹介いたしました、音楽療法研修生のAさんが取り組んでいるケーススタディーについて書いてみたいと思います。Aさんは今年1月、音楽療法士補の筆記試験に見事合格され、3月の面接諮問をパスすれば、晴れて日本音楽療法学会認定音楽療法士となります。あともう少しです!頑張ってほしいです。そんなAさんが取り組まれている事例研究は、アルツハイマー型認知症を有するクライアントT氏への集団音楽療法です。T氏は80代男性、2年前にアルツハイマー型認知症を発症し、一年前よりデイサービスをご利用されています。日中帰宅願望が顕著で、フロア内を落ち着きなく歩かれ、ご自身も「わからない」と不安感を訴えておられます。(この「帰宅願望」という用語はこの業界でよく使われますが、個人的にこの言葉にいつも引っかかってしまいます。デイサービスをご利用のお客様だけでなく、誰だって家に帰りたい、「帰宅願望」はあります。会社、病院、施設などにずっといたい人がいるでしょうか。余談ですが・・)ご自宅では昼夜逆転の生活をされているようで、センターでもよく傾眠されています。音楽療法セッション中は「帰りますから」と何度も立ち上がられます。そんなご様子からAさんはT氏の音楽療法における長期目標を「日常生活において不安感を軽減し、安心した時間を増やす」としました。また、音楽療法で集中して活動すれば離席が減るだろう、日中活動性を上げれば昼夜逆転を解消できるのではないだろうかと考え、短期目標を「セッション中の離席回数の減少」「集中して参加し、活動性を上げる」としました。Aさんはヘルパーである利点を活かし、介護をしながらT氏のご様子を観察し、T氏が脳梗塞により右瞼が落ちてきており、ホワイトボードに貼った歌詞幕が見えづらい・頻尿でトイレに行かれる回数が頻回である・興奮すると発熱しやすい 等の特性を考慮し、セッションではT氏専用の手持ちの歌詞カードを用意する・セッションの前にトイレを済ます・プログラムの最後には必ずクールダウンを図る鑑賞と歌唱を実施する といった個別アプローチを導入しました。Aさんの行ったプログラムは1.挨拶の歌(始まりの認識)2.季節の歌(見当識)3.四肢を中心とした音楽体操(活動性を上げる、筋力の維持)4.楽器演奏(発散する、自己表現を促す)5.鑑賞(筋力の弛緩、精神の安定を図る)6.歌唱(クールダウン)という流れで、セッションの前後の様子を観察し、セッション中の離席回数を記録しました。

Aさんが自分なりにプログラムを組み、セッションを開始するとT氏は集中して参加されるようになり、次第にアイコンタクトが取れるようになり、笑顔も多く見られるようになりました。セッション中の離席回数をカウントしていましたが、12回のセッションの中で6回目のセッション時、スタッフの交代による環境の変化に戸惑われたのか2回離席が見られましたが、それ以外はほとんど0、若しくはセッション終了時にトイレに立たれた1回のみで、あとは離席が見られませんでした。またAさんはセッション開始前とセッション後の様子も観察し、T氏の変化を記録していきました。Aさんは集団セッションの中でも前述したようにT氏の特性を考慮し個別に関わり、12回のセッションを行ったことで、T氏が音楽療法に集中して参加され、それに伴い不安感が軽減され、セッション直後は安定するようになったと結論付けました。しかしセッション直後は安定していても、時間が経つにつれだんだん不穏になられてしまうので、セッションが終わってから帰宅されるまでの間、穏やかに過ごして頂くにはどうすればいいか、というのがAさんの今後の課題だそうです。Aさんが取り組まれている事例をお読みになり、「私ならこんな目標を立てる」「クライアントT氏のニーズは何々であるから、自分ならこういうアプローチをする」など、皆さんそれぞれに感想・ご意見をお持ちになったと思います。音楽療法の治療方針、トリートメントの方法はひとつではありません。これからAさんが試行錯誤しながら、臨床経験を積み、より良いセラピストとして成長していくことを願っております。

株式会社ケアサービスのホームページです。
http://www.care.co.jp/

株式会社ケアサービス 第二事業本部 デイサービス事業部
音楽療法士 早川 佳子
Yoshiko Hayakawa, MM, MT-BC

[編集後記]
年度末が迫り、伊賀音楽療法研究会も役員改選時期となりました。毎年選挙で選ばれますが、開票日に電話があったら断らず受ける、という不文律があり、そろそろ新旧役員で引き継ぎが行われる頃です。充実した研究会運営が出来るよう、平成27年度もメンバーで協力してまいります。(よ)

伊賀音楽療法研究会メールマガジン編集室
〒518-0869
三重県伊賀市上野中町2976-1上野ふれあいプラザ3階
伊賀市社会福祉協議会
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伊賀音楽療法研究会 – 伊賀市社会福祉協議会
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関連エントリ

「音楽療法士ってどんな仕事ですか?」
http://masaokato.jp/2012/12/12/123304

JMTSP アメリカ 音楽療法だより (98)
http://masaokato.jp/2014/07/13/003139

世界の音楽療法の情報 (2014.12.10)
http://masaokato.jp/2014/12/11/045333

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