2010年5月 アメリカ音楽療法だより
カリフォルニア州立精神病院でリハビリテーション療法士(音楽療法)として仕事をしている畑真由美さんのリポートをUPしました。
★☆ 伊賀音楽療法研究会メールマガジン5月号(No.106) ☆★
◎JMTSPアメリカ音楽療法だより(53)
JMTSPだよりの5月号に初投稿させて頂きます畑 真由美と申します。現在、カリフォルニア州の州立精神病院でリハビリテーション療法士(音楽療法)として仕事をしております。アメリカへは2002年にウェスタンミシガン大学大学院の音楽療法学科に留学して以来、ミネソタ州でのインターンシップを経て、2006年から現在の職場で働いています。
現在の職場は公立の犯罪者を対象とした精神病院ということもあり、刑務所と同じく完全警備された環境で、主に精神病を患っている犯罪者の治療を行っています。現在カリフォルニア州には同じような州立精神病院が5つ、また刑務所内で同じような治療を提供しているプログラムが2つあり、それぞれ異なった背景をもつ患者を受け入れています。私の働く施設は2005年にオープンした新しい施設で、主に刑期を終えた後に裁判所によって精神病の治療が必要だと判断された患者を受け入れており、その90%以上が性犯罪を犯した患者です。ほとんどの患者が1年以上、長い場合は10年近くと長期にわたって治療を受け続けています。
カリフォルニア州には現在、メーガン法とジェシカ法と呼ばれる性犯罪者に対する扱いを規定した法律があり、その法律に従って性犯罪者の中でも凶悪性犯罪者という規定に当たる罪を犯した患者が私の働く病院で治療を受けています。主に小児性愛とレイプ犯が多く、また露出症などの精神病診断を受けているもの、あるいは上記に当たる犯罪を犯しながら、性障害の診断は受けていないが自己愛性人格障害や反社会性人格障害など人格障害の診断を受けている例が多く見られます。精神病といっても、性障害や人格障害の診断を受けただけで、薬での治療の出来ない高機能の患者が多く、治療の方法も確立されていないため、試行錯誤が続いています。
音楽療法はリハビリテーション療法の一部として、芸術療法士、レクリエーション療法士とともにグループ療法を提供しています。治療分野はウェルネス リカバリー モデルに基づいて11の分野に分けられており、精神治療、社会技能、怒り・感情のコントロール、霊性と希望、薬物依存、医療、法律違反、教育と学習、職能訓練、余暇活動、社会復帰の分野の中でそれぞれの患者のニーズにあったグループ療法に参加できるような治療計画を立てます。
音楽療法では上記11分野のうち現在、法律違反を除いた全ての分野にかかわるグループ療法を提供あるいは計画しています。精神治療の分野では音楽を使ったリラクゼーションやストレス適応訓練など、社会に出たときに生かせるような適応能力を培うことを目的とした音楽療法を行います。
社会技能は音楽療法の中でも重点を置きやすい分野で、グループ即興を通してのコミュニケーション能力の向上やグループ音楽活動を通して役割分担や社会参加の意識を高めることを目標とします。怒り、感情のコントロール、霊性と希望、薬物依存の分野では歌詞・メロディー分析を通して歌や音楽の中で伝わってくる感情を知り、自分たちの状況と照らし合わせてみたり、他人への同情の念を育む切っ掛けを作ります。また、作詞作曲をとおして、患者本人の気持ちを音楽を通して表現することもあります。医療の分野は、肥満や糖尿病患者のための音楽に合わせたエクササイズや言語、行動、理学療法とのコラボレーションなど可能性は広いのですが、現在はまだ計画段階でグループ療法の提供には至っておりません。教育と学習、職能訓練、余暇活動、社会復帰の分野では、音楽理論や楽器習得など高機能患者のレベルに合わせたグループを提供したり、多様文化を音楽を通して検証したり、音楽経験のある患者にグループ指導の機会を与えるなど、実際に社会に戻ったときに、音楽を生活活動の一部として使っていくための計画と能力の維持を目的としています。
性障害は、薬や治療で完全に治癒できるものではなく、認知行動療法を通して妄想が行動に結びつくことを防止し、更なる被害者を生み出さないということを目標に、5段階に分かれた治療プログラムを提供しています。
音楽療法はその治療プログラムをサポートし、社会適応力を培うための機会を提供するリハビリテーションサービスの一部として大きな役割を果たしています。
現在の職場で苦労したことのひとつに、治療対象の特殊性が揚げられます。大学や大学院の音楽療法プログラムでは一通りの精神病については学びますし、実習で精神病患者に関わることはありますが、性障害や人格障害に長期的に関わることはあまり多くはありません。また、性障害や人格障害に関する治療は科学的に立証されているものは少なく、特に音楽療法分野での研究や論文は限られているため、他分野の研究や論文を参考に療法計画を立てていくしかありません。そういった意味でも、自らリサーチを進め、他分野との連携によって効果のある治療を模索していくことが求められる分野です。
日本でも近年、性犯罪やインターネット上のポルノグラフィが多発し始め、治療や法整備の必要性が唱えられています。性という、社会的にも公に討論をすることが避けられがちな分野ですが、各国の治療例や法の利点、難点を比較し、性障害を締め出すのではなく、共生していけるだけのサポートを提供できる環境作りが今後、必要とされてくるのではないかと思います。
畑 真由美
[編集後記]
最近アメリカからの音楽療法だよりが届くのが遅れているため、発行が当初予定の10日には発行できなくなっていますことをご了承ください。そうそう、先日、あの奈良市音楽療法推進室の方が、伊賀市社協のミュージックコーディネーター派遣事業に関してヒヤリングにお越しくださいました。伊賀音楽療法研究会は、奈良市の音楽療法推進室の先駆的な音楽療法実践を参考にさせていただき、追いつくことなどできないと思いながら、細々と活動を続けてきたため、とても奈良市に参考にしていただけることなどないと思っていました。しかし、奈良市も事業仕分けが実施され、高齢者施設や障がい者施設に有償で派遣するしくみを模索中なのだそうです。
確かに、奈良市音楽療法推進室は全員奈良市社協職員として雇用され、業務として無償で特定の福祉施設で音楽療法実践をされていましたから、音楽療法推進室以外の音楽療法士との連携や、フォーマルサービスとしての派遣のあり方を見直さなければならない時期に来ているようです。せっかくですので、これを機に、また奈良市音楽療法推進室ともいろいろ情報交換していきたいと思っています。実は奈良市って、伊賀市と隣接してるんです。奈良市も市町村合併で伊賀市と隣り合わせになったんです。伊賀市から奈良市の端っこの地域にミュージックコーディネーターがおじゃましているんですよ。奈良市の中心部から来るより伊賀から行ったほうが全然近いんです。
伊賀音楽療法研究会メールマガジン編集室
〒518-0869 三重県伊賀市上野中町2976-1上野ふれあいプラザ3階
伊賀市社会福祉協議会
電話番号 0595-21-5866 FAX番号 0595-26-0002
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JMTSP関連リンク
JMTSPは、世界各国で音楽療法を勉強、または実践している日本人学生と音楽療法士、また世界の音楽療法に興味を持つ方々の情報交換場所として設立されました。(Japanese Music Therapy Students & Professionals)
・ 公式ホームページ http://www.geocities.jp/jmtsp2004/
・ jmtspのブログ http://ameblo.jp/jmtsp/
ミュージックセラピー関連エントリー(美幌音楽人 加藤雅夫)
JMTSP アメリカ音楽療法だより 9月
http://masaokato.jp/2009/09/17/004224
2010年 アメリカ音楽療法だより
http://masaokato.jp/2010/02/16/114340
2010年3月 アメリカ音楽療法だより
http://masaokato.jp/2010/02/16/114340#comment-1817
アメリカからの手紙(日本人の音楽療法士)
http://masaokato.jp/2010/04/26/071000
加藤 雅夫(bihorokato) on Twitter
http://twitter.com/bihorokato
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加藤 雅夫 より 2010 年 5 月 30 日 07:23