「世界の音楽療法の情報」 (2015年 5月10日)

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「世界の音楽療法の情報」 (2015年 5月10日)
“Information of music therapy in the World” (May 10, 2015)

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伊賀音楽療法研究会メールマガジン5月号(No.167)

[世界音楽療法情報]
JMTSP アメリカ音楽療法だより (108)

伊賀音楽療法研究会メールマガジンの読者の皆様、ご無沙汰しています。前回の投稿が2013年10月になりますので、約1年半ぶりの投稿になります。このアメリカだよりも、当初は私がフロリダで大学院生時代に投稿したのが始まりでした。2004年3月から始まり、約2年にわたって毎月記事を書いていました。今では皆様ご存知の通り、日本やアメリカを主にした海外で活躍するJMTSP(Japanese Music Therapy Students and Professionals)のメンバーが持ち回りで担当してくれています。「JMTSPアメリカ音楽療法だより」と題しまして、音楽療法とは何か、実際の臨床の場では何が行われているのか、大学・大学院での音楽療法カリキュラムの内容、その他、音楽療法に関連した様々な事柄など、このメルマガを通じて「現場の声」を知ってもらい、皆様の音楽療法キャリアのお役に立ててもらえたら、という思いで続けています。最初の投稿からもう11年以上が経ちました。歴史を感じます。

さて、今月号はアメリカで音楽療法士として働くために欠かすことができない「ビザ」について、自らの経験をもとにお話ししたいと思います。”人種の坩堝”として知られるアメリカですが、本当に多種多様な人々が生活しています。アメリカはどの国より移民を受け入れていますし、現にアメリカ政府は毎年67万5千人という上限を設定し、全世界に移民ビザを抽選という方法で発給しています(注:中国、韓国、フィリピンなど、移民者の多い国はこの制度が適応外だったり発給数が減る)。2010年の人口統計のデータによると、3億人超の人口のうち、約13%の3900万人程の人たちが、アメリカ国外で生まれ後、現在アメリカ国籍もしくは永住権を取得し生活をしています。

アメリカにおいて合法的に滞在し就労するには、アメリカ市民を除き、何かしらの「ビザ」が必要となります。それは大きく分けて二つに分類でき、一つは移民の意味を示す「移民ビザ」、もう一つが帰国の義務が適用される「非移民ビザ」です。たくさんの外国人が生活するアメリカでは、外国人労働者がアメリカ国内で仕事を得る=アメリカ国民の仕事が減ると考えるので、優秀な外国人労働者が自国への利益につながるといったように、国益を第一優先に考えた上で、移民法が成り立っています。アメリカ政府が発給するビザには沢山の種類がありますが、大雑把に分類するならば、永住権が移民ビザ、学生ビザなど含めその他の全てのビザが非移民ビザとなります。

アメリカで音楽療法士として働く場合、上記の抽選、アメリカ市民との結婚、または雇用を通じての永住権取得を除き、何かしらの「非移民ビザ」を取得する必要があります。JMTSPメンバーにもOビザ(芸術、スポーツ、研究等の分野で相当の実績がある人とみなされた人が給付されるビザ)を取得したメンバーがいますが、ここではH1Bビザという、「主に大卒者で専門的な職業に就く人の為の就労ビザ」で話したいといます。実際、私自身もこのビザを取得しましたし、アメリカで働くJMTSPの多くのメンバーもこのビザを取得したはずです。このH1Bビザですが、学士レベルで6万5千件(注:その内、実際はチリ人、シンガポール人用に6800件リザーブされている)、それ以外に修士以上の学位を取得した者には2万件という枠があり、審査に通った申請者に対し交付されます。ビザ取得後3年間有効で、その後1度のみ更新できるので、計6年間就労できます。

H1Bビザに関して、いくつか難しい問題があります。まずは、取得に取得に対し細かい規定があるという事です。最初に確認しなけらばならないのは、自分の専門知識に関連した職種でなければなりません。例えば、アメリカの大学で音楽療法を勉強し学位を取得後、アメリカにある日系銀行で就職が決まったとしても、このH1Bビザは所得できないのです。私の場合、音楽療法を学び、その知識を活かした専門職だった為問題ありませんでしたが、留学仲間の中には、第二志望の企業から内定をもらったものの、自分の専門分野とみなされず却下され、なくなく帰国した者も多くいました。

そして、もう一つの問題は、H1Bビザの年間枠です。ビザの受理開始が毎年4月1日から始まり、上限に達した時点で受理終了となります。簡単に言うと「早いもの順」と言ったところでしょうか。そして、この年間枠に達するスピードはアメリカ国内の景気に直結しています。例えば、私が申請した2005年は、申請した8月には残りわずかという状況でした。幸い、修士以上の高学歴外国人労働者の為に別枠(2万件)を設けるという新しい決まりが採用されたのが丁度その頃だった為、修士を取得していた私はその特別枠によって受理されましたが、そうでなければ危うい状況でした。ちなみにアメリカ経済が絶頂期だった2008年はわずか2日でこの年間枠に到達しています。そして、皆さんまだ記憶に新しいと思いますが、サブプライムローン危機後の2010年は264日、11年300日、12年235日と、年間枠に到達するまでにかなりの日数がかかりました。よって、アメリカ経済が潤っている場合、早い段階で年間枠に到達する事が予想されるので、4月1日に申請できるよう、逆算して就職活動をし、ビザ申請の手続きを終える必要があります。これが留学生にとっては難しいのです。

留学生には大学卒業後、OPT(Optional Practical Training)と呼ばれる期間が1年間与えられます。要は、その一年でアメリカ国内で自分の学んだ専門知識を使って経験を積める期間です。EAD(Employment Authorization Document)というステータスを取得した後、1年間合法的に滞在・就労できます。ただ、このステータスは大学卒業した留学生は誰でも申請する事ができ、特に職種を問われないため、実際には自分の専門分野以外の仕事をした後帰国するという学生もいます。アメリカ国内に残りH1Bビザを取得が必要な場合、このOPT期間中に就職を決め、尚且つ、その会社がビザをサポートし、先程説明したように、4月1日に提出するという事がとても大事になります。

移民関係の手続きは、細かい決まりがあって大変ですし、時間や費用もかかります。そのため、外国人労働者を多く採用する大手IT企業などと違い、音楽療法を学んだ留学生を雇った事があるという音楽療法関係の就職先は皆無に等しいと言っても過言ではありません。多くの場合、そういう面倒な手続きは敬遠されがちですから、ビザの必要性を説明するタイミングというのとても重要で、多くの場合、内定通知をもらってからの駆け引きとなります。実際私の場合も、最初に就職した会社でビザのサポートを約束してもらっていたにもかかわらず、就労開始後2ヶ月で人事課のトップが代わり、突然「ビザはサポートしないから」という一言によって、転職を余儀なくされました。それ以外にも、午前中に内定をもらった病院からその日の午後に連絡があり、ビザが必要なら採用しないとの一言で内定取り消しになった経験もあります。そのような状況に加え、留学生には時間的制約もあるわけですから、音楽療法士として働くためのビザ取得までは、とても厳しい道のりと言えます。ちなみに今年ですが、2万件の特別枠も含め、6日で年間到達枠に達しました。公平を期すため、締め切り以前に届いた申請者は抽選が行われるそうです。仕事を得たにもかかわらず、自分の未来が抽選で決まるというのはなんとも納得しがたいですよね。

アメリカで音楽療法士として長く滞在・就労する場合、最終的には「移民ビザ」=永住権が必要となります。上記に書いたように、H1Bビザに限れば、最長で6年しか有効でありません。移民ビザ以外の非移民ビザは、移民の意思が無く帰国が義務付けられるので、途中で永住権申請など他の合法的な滞在手続きを開始していない場合、ビザが切れ次第、本国に帰国という形になります。しかし、H1Bビザに関しては、別名”永住権へのステップビザ”とも呼ばれているぐらいなので、多くの場合、H1Bが有効な間に、永住権申請をします。ただ、ここで注意なければいけないのは、あくまでもH1Bは非移民ビザに属しています。よって、H1B期間中、少しでも移民意思が受け取れるよう行為が発覚した場合(例えば、ビザ更新の面接時に永住する気があると答えるなどや、自国との結びつきがあまり見られないと判断された場合など、後の永住権取得に影響する恐れがあるので、注意が必要となります。

永住権(グリンカード)取得にはいくつかの方法がありますが、ここでは雇用を通じて取得する永住権についてお話ししたいと思います。このメルマガでは多くを割愛しますが、永住権取得までのプロセスは、大きく分けて3段階に分ける事ができます。まず第一段階は、労働認定書の申請です。労働認定書とは、申請者(外国人労働者)がアメリカ国民では補えない、またはアメリカの労働者が不足している役職である事を証明するもので、アメリカの労働局より発行されます。この労働書を発行してもらうためには細かい規定があり、実際に指定された広告母体(新聞やネットなど)に自分の役職を公募し、”市場調査”という名の下、該当する能力と意思をもったアメリカ人が存在しない事を証明しなければなりません。実際には一般企業の場合、該当するアメリカ人を”ふるいに落とす”為、募集をする際、必須条件を事細かく記載しハードルを上げる手続きをしたりしますが、私のように政府機関に勤める場合、そういう小細工は当然できず、かなり不利な状況でした。しかも、私がこの第一段階(3段階のうち最も難しい)の手続き中は、アメリカ経済が混沌としている最中だったので、公務員という安定した職を求める求職が多く、さらに不利でした。しかも、血税を使って募集活動をするのだから、実際に職員を雇用したいという、私にとっては聞きたくもないような事を上司に言われ、生きた心地がしなかった記憶があります。

書類上の手続きの間違いなど、かなり危機的な状況にはなりましたが、なんとかこの第一段階をクリアし、残りの第二、第三と順調に終え、昨年の7月、無事に永住権を取得しました。申請開始から約4年の歳月がかかりましたが、今となっては全てが良い思い出です。学生ビザから始まり、全てはこの永住権を取得するまで、慎重に考え行動してきた結果ですので、弁護士から永住権取得の知らせを受けた時は本当に飛び上がって喜びました。

”自由の国アメリカ”においても、外国人労働者という立場はとても弱いというのが現実です。レイオフがあれば真っ先に外国人労働者がその対象になりますし、何かしらの理由で会社がビザをサポートしないという事であれば仕事すらできません。ビザの更新をサポートしてもらえなければ、ビザが失効した時点で帰国を余儀なくされます。そのことからも、永住権を得る事によって、非移民ビザというしがらみから解放される事の意味というのは大きいのです。

かなり長文になりました。特に音楽療法とは直接関係ない話題かも知れませんが、ご拝読ありがとうございました。ご質問などありましたら、下記のメールアドレスよりご連絡いただけたら幸いです。
岡本稔 minorukunho4@gmail.com

[編集後記]
伊賀音楽療法研究会も4月20日に今年度の総会を無事終えることができました。事業報告、事業計画、決算予算が承認され、新たな年度が始まりました。1999年3月末に発足し、40名で16年目の春です。今年度も盛りだくさんの研修や、イベントでの演奏、部活(ギター部・オカリナ部・調理部)の時間が楽しみです。

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JMTSP岡本稔さんからのアメリカ音楽療法だより
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