JMTSPアメリカ音楽療法だより(中村紀子)

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三重県伊賀市にある伊賀音楽療法研究会(伊賀市社会福祉協議会内)からメールマガジンが送られてきました。7月号のリポーターは、米国カンザス州で活動のホスピス音楽療法士中村紀子。

写真: オズの魔法使い(虹の彼方に

伊賀音楽療法研究会メールマガジン7月号(No.120)

[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(67)
 東日本大震災から数ヶ月が経ちましたが、被災された方々に改めて心からお見舞い申し上げます。また原発の問題もあり、日本にお住まいの方々はまだまだ不安な日々を送っている事と思います。米国在住の私は募金活動でしか復興に関わる事ができませんが、被災されている方々の事を忘れないよう、毎日を送っています。
 このメールマガジンへの投稿は今回が二回目です。ここ4~5年、ホスピスで音楽療法を実践しているので、今日はそのトピックについて書かせていただきます。ホスピスに依頼される患者さんは、基本的に六ヶ月、または六ヶ月以内の余命を診断された方々です。病名は様々ですが、(先進した)認知症、癌、慢性閉塞性肺疾患、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、うっ血性心不全、その他を含みます。また、特にホスピスの基準に合う病名がない場合でも、患者の全体的な身体機能が低下しているケースは、全身衰弱(General Debility) として、ホスピスケアを受ける事ができます。
 私は成人の患者さんを対象に音楽療法を行っており、その方々を自宅、老人ホーム、生活支援施設 (assisted living facilities)などで訪れます。私の患者さんはお年よりの方が多く、そのほとんどが老人ホームに住んでおり、時には同じ老人ホームに5~6人の方を持つ事もあります。患者、その家族、ホスピススタッフ、施設のスタッフから音楽療法の依頼がきて、ホスピスが音楽療法のオーダーを書きます。そして私は音楽療法アセスメントを行う為、患者を訪問します。一人一人についての詳しい情報を得るとともに、患者さんがどの音楽療法からベネフィットされる可能性があるかを判断します。またホスピスでは、患者さんの意思が特に尊重されるので、私も音楽療法についての説明をし(患者さんが会話を交わせる場合)、その患者さんのゴールは何かを話し合います。また、患者さんが話せない場合は、ティームミーティングや他のスタッフ、また家族から得た情報を基にゴールを決めます。そうではありますが、ホスピス患者の病状または心理状態は日によってかなり異なります。ホスピススタッフとして、いつもいろいろな状況に対応できるよう、適切な判断力、柔軟性を持って患者と接するよういつも心がけている毎日です。
 音楽療法のタイプはいろいろありますが、特に認知症を持った患者とその家族のコミュニケーションを音楽で補助する事は、音楽療法の“特技”の一つです。患者が家族の名前を覚えていなかったり、会話を交わせられない事は、その家族にとってとてもショックな事です。大抵、家族はその患者とどう接していいか解らず、老人ホームの面会に来る回数が少なくなったり、“会話を交わせないから、会いにいってもしょうがない。”と思ってしまうようです。
 このような時、音楽療法が役に立ちます。あまり話せない認知症の方(特にアルツハイマー病)でも、若い時に流行だった曲などをすらすらと歌うことがあります。なぜなら、昔聴いたなじみのある曲を歌う事は手続き記憶(procedural memory) だからです。患者が思い出そうと意識をしなくても、歌詞や メロディーが自動的に出てきます。また、この過程でその音楽に関わった感情がよみがえってくる事が多いようです。
 ある日、何にも反応を示さないMrs.Dが音楽療法セッション中、情緒的反応を見せ、人との交流に興味を示しました。これは本当に些細な事のようですが、そこにいたMrs.Dの娘さんは涙を流して言いました“This is the mom I know.”(これが私が長年知っている本当の母です)。特にアルツハイマー病は、患者さんにとっても、その家族にとっても大変な病気です。音楽療法は患者さんと家族の間のブッリッジとなり、 情緒的コミュニケーションをはかる事を助けます。また、私は家族に音楽(CDなど)を使って、患者さんと接する方法を教える事もあります。そうすれば音楽療法士のいない時でも、その患者と家族が 一緒にクオリティーのあるひと時を過ごせるからです。
 また、音楽療法士は患者さんの状態が低下し、死に近づいている時も訪問を続けます(もちろん、それは患者や家族の意思によりますが。)。死が近づいている時、人それぞれ状態は異なりますが、落ち着きが無くなったりする患者さんもいます(英語では terminal restlessness )。そういった状態を軽減するために、音楽療法を行います。最初、患者の行動レベルに音楽の速さや音量を合わせ、そしてだんだんと音楽をゆっくりそして静かにしていきます。この方法により、音楽と同時に患者の行動が落ち着いていくことが可能です。
 ある日、Mrs.Aの病状が低下していると聞き、彼女の家族に電話をしました。Mrs.A の旦那さんと話した後、私はMrs.Aを緊急に訪問する事になりました。Mrs.Aはベットに横になっていましたが、足や手を休みも無く動かし、Mrs.Aの旦那さんがMrs.Aをリラックスするよう肩をさすったり、優しく話しても何も変わりませんでした。ホスピス看護婦も私と同時ぐらいにMrs.Aの家に着き、Mrs.Aの血圧をチェックし、リラックスさせる用意をしようとしているところでした。Mrs.Aは賛美歌が好きだったので、私はテンポの速い賛美歌を患者の呼吸、行動レベルに合わせて、ギターの伴奏で歌い始めました。音楽がゆっくり、静かになるに連れ、Mrs.Aの呼吸パターンが変わり、また手や足も落ち着いてきました。そして最後にはMrs.Aは目を閉じ、すやすやと眠っているように見えました。
 また、ホスピスは患者だけでなく、患者の家族もサポートします。これは特に患者が死に近づいている時とても重要で、スタッフは家族にその過程について詳しく説明します。その一つとして、スタッフが家族にいつも言う言葉があります—-“Hearing is the last thing that goes away.” (直訳:聴覚は最後に消え去る)。患者の反応が無くても、彼らは周りの声や音が聞こえるとの事です。それなので家族には、名前を呼んだり、言い残した事を患者とシェアする事を進めます。
 私の患者はキリスト教徒の方が多いので、家族に賛美歌を歌ってくださいとお願いする事がほとんどです。ですが、時には患者の好きなアップビートな曲をお願いされる事もあります。過去、クリスマス前に、Mrs.Bが死に近づいていて、その家族十人ぐらいがMrs.Bのベットを囲んでいました。こういった状況の場合、静かな音楽が適切だと思いがちですが、その家族はアップビートなホリデーソングをMrs.Bに歌ってあげたいと言いました。私のギターを伴奏に、その家族は昔、家で一緒に歌ったホリデーソングを歌い、曲にまつわる思い出話をしました。Mrs.Bのピーチパイはとても美味しかったとか、だれがクリスマスの準備をよく手伝ったかなどの話で、時には、笑いもおこりました。家族は一緒にMrs. Bの人生を振り返って、彼女が充実した人生を送った、と思えるひと時を過ごしたようです。またその過程が少しではありますが、家族に安らぎを与え、貴重な思い出を作ったようも見えました。
 他にも、ホスピス音楽療法士は患者さんのお葬式や、年に何回か開かれるホスピスのメモリアルサービスで音楽を提供します。時々、友人や新しく会った人に、私はホスピス患者と働いていると言うと、“よく悲しい仕事を毎日できるね。”と言われる事が多いですが、私はこの仕事を“悲しい仕事”とは思いません。人間、誰もが一度は死を経験しなければなりません。ホスピスは患者そして家族をサポートし、患者が安らかな死を迎えられるようケアをします。音楽療法はその大切な一部で、私はホスピス音楽療法士として働ける事を光栄に思います。
Noriko Nakamura中村紀子, HPMT, NMT, MT-BC
ksmomusictherapy@gmail.com

[編集後記]
 2001年7月にこの伊賀音楽療法研究会メールマガジンを発行してから、満10年が経ちました。本当なら今回が121号になるはずなんですが、10年発行している途中で1回分カウント間違いしたようで今回が120号になってしましました。この先いつまでメルマガを発行できるかわかりませんが、アメリカからレポートが届く限り発行し続けていきたいと思います。 (伊賀音楽療法研究会メールマガジン編集室)

伊賀音楽療法研究会 www.hanzou.or.jp/music/top-page.htm

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加藤 雅夫
@bihorokato 北海道美幌町
みなさま、イランカラプテ!日本と世界の人々と共に“平和心”を大切に育てる事が私の願いです。 Guitar Mandolin Music 美幌音楽人
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