JMTSPアメリカ 音楽療法だより(96)

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伊賀音楽療法研究会からの メールマガジンです。(2014.5.10)

伊賀音楽療法研究会メールマガジン5月号(No.154)

[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(96)

皆様いかがお過ごしでしょうか。この度5月号の執筆を担当させていただきます梶ヶ谷恵美(かじがやめぐみ)と申します。

前回の執筆では2年ほど前に私の母校であるColorado State Universityにおける音楽療法のプログラムについてお話させていただいたのですが、その課程を昨年春に終え、夏にKansas州にある州立急性精神科病院、Rainbow Mental Health Facilityで6ヶ月インターンをし、つい数ヶ月前にFlorida州にある個人事務所にて音楽療法士として働かせていただけることが決まりました。今は仕事が始まるまでの一ヶ月、日本に帰国してもうすぐ始まる新しいステージにむけて充電しているところです。今回はそのインターンシップを通して経験したこと、私が感じたことについて書かせていただきます。

私がインターンをした病院(以下、Rainbow)は、病床数32床と小規模で、「他者、または自己に危険を及ぼす可能性があると判断される」というのが入院の条件になっています。このようにRainbowは急性期の患者さんを治療することに特化した病院なので、症状が安定し、退院後の行き先が決まれば、患者さんは平均的には2~3週間で退院していきます。しかし定められた薬を飲むのを自分で止めてしまった結果また症状が出たり、入院前と同じ境遇に戻ってしまったり、退院時に決められた定期検診に現れなかったり他の遵守事項を破ったために、退院後すぐまた病院に戻ってくる患者さんは少なくありません。

私がインターンをしている間、精神科病院は初めてという若い女性、Kが入院してきました。入院当初のKはうつろな様子で、話しかけようとしても警戒して他の患者や治療チームスタッフとは話そうとせず、シャワーを浴びることも拒否して髪はボサボサという状態でした。次第に恥ずかしそうにしながらも少しずつグループセッションに参加するようになり、グループ中の発言や他の患者さんとのコミュニケーションも増えていきました。退院する頃にはかなり回復して、最初に入院して来たころとはまるで別人のように違って明るく前向きになっていました。しかし、なぜRainbowに来るまでに至ったのかについては最後まで話そうとはしませんでした。彼女は入院前の審査で同棲相手から家に閉じ込められていたと報告されており、本人は認めませんでしたが、治療チームの見解では、入院当初に見られた症状はドラッグを使用した為だろうと言われていました。

そんな彼女が退院後2ヶ月ほどでRainbowに戻ってきました。退院した後は定められていた外来の予約にも現れなかったようです。前回の入院の時とは違ってKはグループセッションの途中で退出して戻らなかったり、グループルームの床に寝転がって参加を避けるようになりました。退院後どうすべきかと聞けば「ポジティブにいる」と漠然とした答えしかせず、担当セラピストとの面談でも今回入院に至った経緯を話すことは避け続けていましたが、彼女の症状は安定してきていたので退院の次期が迫っていました。

そこで私のスーパーバイザーは私にKとの個人セッションをしてみてはと提案しました。私にとっては始めての個人セッションでした。Kに少しでも自分に自信をもってもらいたい、ここを出て行く前に何か少しでも意義のある時間を持ってほしいと思い、打楽器、ギター、ハミングなどを利用しながらimprovisation (即興演奏)のセッションをすることにしました。彼女は初めは「なぜこんなことをしなければいけないの」「どんな風に演奏すればいいかわからない」「もう帰ってもいいでしょ」等と言って真剣に取り組もうとしませんでしたが、次第に楽器に触れることに集中する時間が長くなり、躊躇しつつも自分なりの表現をするようになっていき、2人の間で一体感を感じる瞬間が増えていくのを私自身感じました。そのセッションの直後にKに会ったセラピストが私とのセッションについて触れると、Kは目を輝かせて「楽しかった」と言っていたと伝えてくれて、とても嬉しく感じたのを覚えています。

その後も、彼女のグループセッションに遅刻してきたり、他のセラピストに言われて嫌々ながら来るという態度はあまり変わっていませんでしたが、一度ソングディスカッションのグループで、前には話すことのなかった自分と同棲相手との関係について話すことがありました。問題の核心に近づくと彼女はトイレに行きたいと言って部屋を出て行ってしまい、結局グループの終わりの時間まで帰って来ず、退院するまでカウンセリングの中で問題の核心に触れることは避け続けていましたが、私のスーパーバイザーがこんなことを言っていたのが心に留まりました。「彼らはまた同じことを繰り返すかもしれないし、どうすれば幸せに生きていけるかの答えなんて私達にだってわからない。私達セラピストの言うことなんて患者さんたちはここから出たら忘れてしまうだろうけど、楽しい思い出はずっと覚えている。そのことがいつか彼らが変わらなければならないことに気付くきっかけになる可能性に賭ける気持ちで私は毎日彼らとセッションをしている。」

気が遠くなるような話だなと思いましたが、私達にできるのは彼らが変わる手助けをすることだけで、あとは彼ら自身が自分でその必要性に気付かないといけないんだと気付かされ、そのことが後の私のセッションでのアプローチの仕方にも大きく影響したように思います。

この6ヶ月のインターンシップは尊敬するスーパーバイザーや同僚、素敵なクライアント、同時期に音楽療法士インターンとして働いていた友人との出会いがあり、自分にとっての音楽療法とは何か、音楽療法士として、一人の人間としての自分のあり方について考える貴重な機会となりました。インターン前には、インターンが終わる頃には自分はセラピストとしてまあまあになっているんだろうと漠然と思っていましたが、むしろ前よりも音楽療法の全体像が見えるようになったことによって、自分にまだまだ足りないもの、これからも学び続けていかなければならないことが目の前に山積みで、目指す音楽療法士への道は長いなと気付かされました。

アメリカへ戻って仕事を始める日まで残り1週間余り。新しい環境でも学び続ける姿勢を忘れずに精進したいと思います。お読みになっていただきありがとうございました。 梶ヶ谷恵美

[編集後記]
新しい年度が始まり、伊賀音楽療法研究会の総会も無事終わりました。昨年度は数年ぶりに養成講座を開催したことで新会員も増え、参加型コンサートや式年遷宮後のお伊勢さんへお参りなど充実の1年でした。今年度も楽しみな企画満載です。(よ)

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