JMTSP アメリカ音楽療法だより(88)

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伊賀音楽療法研究会から世界音楽療法の最新情報が送られてきた。

伊賀音楽療法研究会メールマガジン7月号(No.144)

[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(88)
 皆さんこんにちは。7月号を担当させていただくロール佑奈です。以前にも2年ほど前にメルマガを担当させていただき、その時は職場の紹介をさせていただきました。現在も引き続き同じカリフォルニア州経営のFairview Developmental Centerにてリハビリテーションセラピスト(以下RT)として働いています。職場の施設の状況は現在とても厳しく、州の経済状況が直接影響する事や又ここ数年の間、沢山の患者を小規模の施設やコミュニティーにあるグループホームなどに移動するプロセスが行われており、施設はどんどん縮小化しています。現在の動きとして、私達の患者である発達障がい者がこのような大規模な施設で暮らす事について、彼らがコミュニティーで暮らしていく時に必要な社会性や自立性の向上の為の訓練の場に相応しくないとの考えが上がっている様です。この様な状況の中で病棟の閉鎖や患者の移動が行われており、私が担当している病棟も、去年閉鎖された2つの病棟が合併して、今まで別々に住んでいた患者同士が現在一緒に暮らしています。現在私は27人の患者の担当をしており、そのうちの半分は新しい患者の為、RTとして新しい患者一人一人の性格や彼らが煩っている精神障がい、身体障がいの程度や症状、それに伴う行動の傾向、コミュニケーションの取り方、レクリエーション活動への参加レベルやその他の趣味、コミュニティーでの活動と外出時の行動や傾向などを学んでいる状況です。新しい患者の中に重度の知能障がい/身体障がいを煩っている患者Vさん(以下V)が居ます。前置きが長くなりましたが、今回はそのVとどのように一対一のセッション/音楽を使って何が出来るのかを現在模索している事について少し書かせていただきます。
 Vは先天盲ろう又は重度視聴覚障がいを持っており、彼とのコミュニケーションはTotal Communication Approach (以下TC)によって行われます。彼は現在一人で歩行する事が出来ず、日常生活のすべてにおいてスタッフのケアーが必要です。車いすに乗る事を激しく拒否するため、ベッドから病棟内にある食堂までの距離を、腕を支えるためのクッションのついた特別な歩行器でスタッフ二人が彼の両脇を支えながら移動し、食後またベッドに戻るといった生活をここ数年続けています(数年前までは短距離は歩けており、クラスにも通っていたがここ数年身体能力が衰えた為)。スタッフは身の回りの世話をし、彼の様子を定期的にチェックはするものの、食事時意外に椅子に座る事を拒否してしまう為、理学療法士との歩行練習や排便訓練以外の一日の時間をベッドで過ごしており、他の患者との接触も少なくVは孤立してしまっています。
 私はまず彼とのコミュニケーションの方法をスタッフから教えてもらう事から始めました。彼とのコミュニケーションはスタッフが身の回りの世話する際に主に彼のジェスチャー(腕や顔をスタッフに傾ける)、声を出す、表情(スマイル/歪める/険しい顔)などの変化で理解しているという事でした。その他にTCでスタッフが実施しているのはTouch Cluesと言い、Vの世話をする時に、まず体の同じ箇所を触ってこれから何をするというシグナルを送る事です。スタッフは彼の左肩を軽くポンと触って、彼のすぐそばに居る事、これからお世話する事を伝えているとの事でした。また彼が興奮した様な時(大きな声を出す、上下に跳ねる、腕を激しくベッドに打ち付ける、自分の頭を叩くなど)は左腕をゆっくりさする事で“落ち着いて”とのメッセージを送るとの事でした。このTouch Clueはそれぞれのアクティビティと関連づけて行う事によって、患者がこれから何が起こるのかを予測する事が出来、また患者の環境(周りにいるスタッフ、場所、アクティビティなど)を理解する事に有効だとされています。私はまずこの二つのTouch Cluesを実施しながら、感覚を刺激する事と許容範囲を計る事にしました。彼はTactile defensiveness/感覚過敏反応があり、彼の両手はいつも握られており、食べる時でさえスプーンを持つ事もしません。私はギターの他にCabassa(カバッサ)、スカーフ(音楽と動きで使われるもの)やスカーフに柔らかい羽が付いているもの、また振動が伝わり易いOcean Drum(サーフドラム)を選びました。これらの楽器や感覚を刺激する物でリズム、テンポ、そしてどの体の箇所を刺激した時に受け入れられるかを模索しました。私はいつもの様に歌を歌いながら、時には低音でハミングしながらカバッサで腕や肩、下半身などをマッサージするように使いました。又スカーフは首の周り、手などの刺激に使いました。サーフドラムは腕や下半身の上に置いて一定のゆっくりとしたリズムでサイドに傾けたり揺らしたりしました。Vの感覚過敏反応のため、カバッサなどはスチールのボールが直接肌に触る事は、感覚が強く感じられたのか、声を出して又腕を振り払う動作をしましたが、服の上から背中や肩への刺激に対して受け入れているようでした。又彼は聴覚障がいがあるものの、ベッドの隣に設置してあるステレオからの低音の振動には反応を見せるとの報告が事前にあったため、ステオを使ってリズムが一定ではっきりしている音楽とソフトタイプの感覚ボールを使ってマッサージを行ったりしました。スタッフが行っている2つのTouch CluesはVとのコミュニケーションに有効で、特に“落ち着いて”のシグナルはVがセッション中に声を上げたり、興奮したりした様子の時に行うと、すぐに落ち着いた様子に戻る時もありました。Vとの日常のコミュニケーションの大切さやTouch Cluesを使ってコミュニケーションの幅や手段を増やして行く事、またそれをスタッフ皆で実施する事がこれからの課題だと感じています。
 最近作業療法士から“センソリーダイエット/感覚栄養”(“必要としている刺激をあらかじめ生活スケジュールの中に組み込んで取り入れられるようにしたり、不快刺激を排除し たりして、行動や情緒の安定を図る方法” 岩永竜一郎 2012)をどのように患者Vに行うかのプランと指導を受け、それを私のセッションにも取り入れ始めたところです。例えば、軽いタッチよりもディープな、圧力をかけたマッサージを行う事やマッサージを受け入れ始めたら、臭覚の刺激(アロマ入りのエッセンシャルオイルやローションをマッサージの時間帯/目的や匂いの効果を基に使い分ける)も同時に行います。又作業療法士から提供された様々な触感刺激のあるアイテム(例えば匂いがついている粘土やボダンやクラフトショップなどで売っている毛糸のボール/Pom ponsが付いた手作りのピローなど)を使い、手で様々な物を触る感覚を体感したり、マッサージを背中や首、間接などの上半身(お腹以外)と下半身の箇所に行い、Proprioceptive(固有受容体)や触感への感覚体験を最長で20分間まで行うなどがプランです。又ヘッドホーンを使ってベースの音やリズムがはっきりとした音楽を聞く事もプランの一つで、セッションでも取り入れていこうと思っています。又今まで使っていた楽器以外でもBass Resonator Bar(ボックスシロホン)や様々な打楽器(ドラムの他にもシンバル/トライアングル)なども触覚や振動を体感するアイテムに使用出来るのではと考えています 。
 Vとのセッションは実際のところはまだ始まったばかりで、私自身、視聴覚障がい患者との音楽療法の経験や接触が未熟な為、現在も模索している状態です。センソリーダイエットのマッサージや音楽療法のセッションの中でTouch Cluesを使ったコミュニケーション、楽器を使った触覚刺激や振動の体感、音楽と動き(歩行訓練もスタッフと行っています)を通して、様々な感覚(触覚、聴覚/音の振動、嗅覚 前庭覚、固有受容覚)への刺激を行い、Vの可動性の向上、コミュニケーションスキルの向上、Vの環境への意識(周りの人/場所)の向上、そして生活の質の向上を目標に音楽療法を引き続き行いたいと思っています。ケースの紹介とは言いがたい内容ですが、視聴覚障がい者との音楽療法をなさっている方がおられ、アイディア/アドバイス等などございましたら連絡いただけますと光栄です。
ロール佑奈 yunalall@gmail.com

[編集後記]
 6月9日、実践者養成講座(概論)が、31名の参加者でにぎやかに開催されました。スキンシップを多用した模擬セッション、楽器体験も織り交ぜながら、理論と実践について楽しく学んだ3時間は、あっという間に過ぎました。第2回、3回も参加者募集中です。この分野には興味があるんだけど、という方は1回のみの参加も歓迎です。どうぞお気軽にお申込みください。(よ)

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