「イギリスの音楽療法」と「日本の音楽療法」
- 2011年11月13日(日) 10:38
- カテゴリ: Twitter, お知らせ, アジア, アメリカ, イギリス, 健康・福祉, 北海道, 北米, 国際, 日本, 欧州, 西欧, 音楽, 音楽療法
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日本の伊賀音楽療法研究会からメールマガジン11月号「世界音楽療法情報」「日本音楽療法情報」が送られてきました。JMTSPリポーターは、ロンドン在住の音楽療法士守口香江。
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伊賀音楽療法研究会メールマガジン11月号(No.124)
[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(70)
日増しに寒さが加わってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?11月号を担当することになりましたロンドン在住の守口香江です。伊賀音楽療法研究会メールマガジンへの投稿は今回で2度目となります。今回は前回の投稿内容とまったく異なり、アメリカからイギリスへの音楽療法士の資格の移行を私の体験をもとに紹介したいと思います。
イギリスでは音楽療法士は法律により守られている呼び名です。「音楽療法士」と名乗り、仕事をするためにはHealth Professions Council(HPC)に正式に登録をする必要があります。つまり登録をしないまま、音楽療法士と名乗り仕事をした場合は法律により告発をされる、または、5000ポンド以下の罰金が科せられる可能性が出てきます。
HPC登録には、HPC承認済みの音楽療法コースを修了する方法(UK approved course)か、海外で資格を取り、自らで音楽療法士としてHPCが定めた最低基準を満たしていることを証明する方法(international registration route)になります。HPC承認コースを修了した場合でも自動的に登録となるのではなく、登録を申請し認められる必要があります。
イギリスのすべての音楽療法コースは修士レベルですので、学士修了資格だけでは登録は難しいようです。私はアメリカにて大学院を修了し、イギリスに移住しました。登録申し込みにあたり、必要であった書類は
1.申込書
2.申込金
3.英語が母国語であることの証明
英語が母国語でない場合はTOEFLやケンブリッジ英語力検定などで英語能力を証明する必要があります。ここで言う「英語を母国語とする」とは「英語を日常で第一言語として使う、または英語のみでの生活」をしている場合を指し、私の場合は大学院入学への最低TOEFLスコアがHPCで要求されているものと同じだったため、英語を母国語とするとして書類を提出しました。ただ、HPC登録後に英語でのコミュニケーションが困難だと苦情がでた場合は、英語能力を証明する必要がでてきます。証明できない場合は登録取り消しになります。
4.人物推薦状
5.健康診断証明書
6.資格、認定証(卒業証書など)
7.パスポートなどの身分証明書
8.出生証明書
9.音楽療法士の資格証明書
10.教育機関のコース証明書
パスポートや卒業証書などのオリジナル以外の書類には本物である、日本語から訳したものは、訳がが正しいという正式な証明書が必要でした。これらの書類に加え、私が修了したコースがイギリスのと同等であることを証明する書類も提出しました。
すべての書類がHPCに届いてから約16週間以内で登録が認められるかどうかの結果が届きます。2008年3月に書類を郵送し、同じ年の6月にHPC登録のための最低基準を満たすかどうかを判断するための十分な書類がないということで、追加の書類を要求されました。最初の書類のみでは判断が可能でなかった項目は、
1.音楽療法に対する自己の経験を通した自己認識、洞察力が不明瞭である
2.文化、民族、性別、宗教そして社会経済がどのように音楽療法における臨床過程や音楽利用に影響するかの理解を示すものがない
3.音楽療法士としての音楽能力が不明である
4.音楽療法を行う上で、精神分析学、心理療法の知識や能力が不明である
5.即興演奏で必要な幅広い音楽スタイルの知識があるか不明である
これらを踏まえ、私のピアノ演奏を録音したCD、修士論文要約、知識や能力を証明するための論文を3本、American Music Therapy Association (AMTA)臨床実習と教育基準、私の音楽療法経験をまとめた履歴書を送りました。
8月に「HPCが定めた最低基準を満たしていると証明されなかったため、登録は認められない」との通知を受けました。判断理由として挙げられたのが
1.音楽療法に対する自己の経験を通した自己認識、洞察力が不明瞭である
2.文化、民族、性別、宗教、社会的少数者(マイノリティ)そして社会経済がどのよに臨床過程や音楽利用に影響するかの理解が不十分である
3.音楽療法を行う上で、精神分析学、心理療法の知識や能力が不明である
イギリスの音楽療法コースは主に分析的音楽療法(analytical music therapy)を学び、精神分析学や心理療法の理解を求められます。イギリスに学士レベルのコースがない理由は音楽療法を学ぶ生徒が人間として成熟していること、勉学に対して真摯な姿勢が求められ、音楽療法士として責任感を持ったきちんとした人格が必要であるからだと思います。HPCの能力基準も色々なアプローチの知識や理解を求められるのではなく、精神分析を基盤とした心理療法や即興演奏といった分析的音楽療法が基準になっていると感じました。
確かに私は修士で2年をかけてこのアプローチを学んだわけではありませ。しかしアメリカで学士過程から学び、HPCから要求されている「最低」基準は満たしていると思いましたので、この決定に納得できずHPCに対し「不服申し立て」をしました。不服申し立て方法は口頭審理か書類審理になり、私は自分の言いたいことをしっかり伝えたいと思い、口頭審理を選びました。口頭審理が11月末との通知を受け、さらに書類を送りました。送った書類は日本とアメリカ大学時代のすべての音楽療法コースのシラバス(教授のサインと大学のスタンプ入り)と、「最低基準を満たしている」ことを証明していると考えられる部分をハイライトしたAMTA専門能力基準(AMTA Professional Competencies)です。
口頭審理には私のケース担当員1人、そして芸術療法(arts therapy)の知識のある審査員4人そして書記で行われました。口頭審理の流れですが、まず私自信で「なぜこの決定に不服なのか」そして「最低基準を満たしていると考えられる理由」を簡潔に述べました。私が日本人としてアメリカ南部と北部で学び、働き、マルチカルチャーに十分理解があり、マイノリティーとしての異なる土地での異なる経験も十分にあること。その理解によって音楽に対するレパートリーが多く、即興演奏にも音楽性にも幅があること。州立の精神病院、精神病患者のためのケアホームで個人セッション、グループセッション行った経験がHPCが要求している最低基準を十分に上回っていること。そして、それらの経験と大学での講義によって精神分析学、心理療法の知識や能力を得たことを主張しました。このスピーチの直後にケース担当員が「今の主張により、文化、民族、性別、宗教、社会的少数者(マイノリティ)そして社会経済がどのよに臨床過程や音楽利用に影響するかの理解、という部分の最低基準が満たされたと思います」と添えてくれました。この後、審査員からいくつか質問を受けました。質問の内容としては、「イギリスの音楽療法コースはカウンセリングを受けることが義務付けられているが、個人的にカウンセリングを受けたことがあるか」と「イギリスに移住して1年ほど音楽療法士として働いていないが、どのように療法士としての能力を維持しているか」といったことが主だったと記憶しています。まず最初の質問には「アメリカにて留学生としてカウンセリングを体験したこと」二つ目の質問には「現在、音楽療法士としてではないが、色々と問題のある中学生に音楽をアクティビティとして療法的に提供している」と答えました。この後、審査員が決定を下します。私の場合ですが、ケース担当員によるととても簡単なケースだったということで5分後にHPC登録許可の決定をもらいました。
HPC登録に必要な書類を集め始め、音楽療法士として就職活動を開始するまで1年以上かかりました。このような長い道のりを経てやっと手に入れた音楽療法士というタイトルですが、イギリスでは音楽療法士としての仕事が大変少なく、いくつかのパートタイムの仕事を掛け持ちをするのが現状です。現在はイギリス政府の費用削減も影響し、職を失う療法士も多くいます。私の場合もパートタイムで3つ仕事を掛け持ちしていますし、同僚の中には、療法士として仕事が見つけられないため、週の半分をカフェで働いているという人もいます。このような状況ですが、経験を積み、知識を増やし、音楽療法士として確実に成長していきたいと思っています。
私の個人的な体験を最後まで読んでくださってありがとうございます。ご質問、ご意見などありましたら、メールいただけば幸いです。(守口香江)[日本音楽療法情報]
◎伊賀音楽療法研究会
○H23年度第3回音楽療法講座
【日時】2012年1月15日(日)10:00~15:00
【テーマ】「音楽療法の現場で役立つ鍵盤ハーモニカ演奏法」
【講師】北野 敦さん(ピアノ講師、シンガーソングライター)
【場所】桃青の丘幼稚園(予定)
○H23年度第4回音楽療法講座
【日時】2012年2月5日(日)10:00~12:00
【テーマ】「特別支援学校の教科書の役割~『おんがく☆~☆☆☆』~」
【講師】根津 知佳子さん(三重大学教育学部教授)
【場所】上野ふれあいプラザ(予定)
三重県伊賀市上野中町2976-1
伊賀鉄道 上野市駅から徒歩3分
両講座とも
【参加費】各一般2,000円
※いずれの講座も日本音楽療法学会のポイント認定講座となる予定です。
(ポイント申請中)
【問い合わせ先】伊賀市社会福祉協議会内
伊賀音楽療法研究会 事務局 吉田
電話:0595-21-5866/FAX:0595-26-0002[編集後記]
今回、アメリカ音楽療法だよりを送ってくださった守口さんは、2008年1月号(25)でノースカロライナから報告してくれました。あれから3年が経とうとしていますが、今回はイギリスのロンドンからの報告をいただきました。アメリカで活躍している音楽療法士の中には、これまでも、オーストラリアで活動されている方からも報告がありましたね。アメリカ音楽療法だよりがいつの間にか世界音楽療法だよりになっているようです。三重県の片田舎からの情報発信ですが、中身は地球規模の情報を発信することができてとっても光栄です。JMTSPの皆様、これからもよろしくお願いします。
伊賀音楽療法研究会メールマガジン編集室
http://www.hanzou.or.jp/music/top-page.htm
関連エントリー:
JMTSP の検索結果 – 美幌音楽人 加藤雅夫
http://masaokato.jp/?s=JMTSP
ツイッター:
加藤 雅夫
@bihorokato 北海道美幌町
みなさま、イランカラプテ!日本と世界の人々と共に“平和心”を大切に育てる事が私の願いです。Guitar Mandolin Music 美幌の音楽人
http://masaokato.jp
加藤 雅夫(bihorokato) on Twitter
http://twitter.com/bihorokato
- 一つ新しい記事: A・セゴビアへのイエペスのオマージュ(ギター協奏曲)
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5 件のコメント
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米国の音楽療法は、日本のそれに比べて進んでるという前提なのでしょうか?日本の特長を生かした音楽療法があればいのですが。視床痛がきつく、音楽療法には期待しています。
なりひら より 2011 年 11 月 13 日 22:13
見上げてごらん夜の星を・・なりひらさん、今夜は「六八九トリオ」を聴いてお休みください。
美幌音楽人 加藤雅夫 より 2011 年 11 月 13 日 23:21
はじめまして。こんにちは。
初めて、メールをさせていただきます。
私は、日本の音楽大学にて音楽療法を専攻し現在は(補)の資格の状態です。
発達障害児への音楽療法を仕事として、持ちたかったのですが。。。
日本では、音楽療法の仕事は少なく、あっても介護士兼音楽療法。の仕事などしかみつからず
個人での音楽療法教室を開くにも経験が浅く、諦めてしまいました。
現在は、日本で中学校の音楽教諭として働いています。
現在の仕事にも、あまり納得がいかず音楽療法士としての道を諦めてしまったことに後悔をしています。
大学在学中に、アメリカで音楽療法を学ぶ道も考えましたが。
私的な都合で断念しました。
現在、アメリカやイギリスなどで本格的に音楽療法を学び音楽療法士として働くことを希望しています。
しかし、大学から探せばよいのか、大学院で探せばよいのかわからないでいます。
伊賀さんのイギリスの音楽療法士へなる道を読み、本当に難しい道なのだと確認しました。
伊賀さんは、留学の際何を基準に学校選びをされましたか?
失礼でなければ、聞かせて頂きたいです。
長文失礼いたしました。
坂野智恵
坂野智恵 より 2013 年 9 月 29 日 21:23
坂野智恵さんへ: 「障害があったらのりこえればいい!道をえらぶということは、かならずしも歩きやすい安全な道をえらぶってことじゃないんだぞ。」
加藤 雅夫 より 2013 年 9 月 30 日 00:49
坂野智恵さんへ
私は今横浜の自宅でピアノ教室をさせて頂いております。
職業の音楽療法士として色々考えた時期もありますが…
http://ameblo.jp/mahou-piano/entry-11503500193.html
自分のピアノ講師という仕事に統合し、
新たな分野として「音楽療法+ピアノレッスン」を構築し、
ピアノ指導者の方へも啓蒙活動をしています。
私は道が無かったら、自分で道を作る方を取りました。
イギリスとは違いまだ国家資格になっていない日本の現状がありますが、
どんな職種もニーズがあれ(必要とされれ)ば仕事を作っていけます。
もちろん専門性が必要なものは学びが必要ですが、
療法とは臨床あってのもの。
臨床経験は多ければ多いほど自分を高めてくれますので、
地域の方へ「私は音楽療法でこのような事が出来ます!」と、
手を挙げられてはいかがでしょうか?
(↑ひとつのアイデアとして受け止めてくださいね ^▽^ )
坂野智恵先生にとって、何かのヒントになりましたら♫
音楽療法世界大会が茨城県つくば市で2017年7月に検討されていますが、
そこでお出会いできるといいですね。(●´ω`●)ゞ
ピアノ講師,音楽療法士☆福田りえ より 2013 年 10 月 2 日 10:44