JMTSP アメリカ音楽療法だより(久保田圭祐)

三重県伊賀市にある伊賀音楽療法研究会(伊賀市社会福祉協議会内)からメールマガジンが送られてきました。9月号のリポーターは、米国カリフォルニア州で活動の音楽療法士久保田圭祐。

音楽: Do not stand at my grave and weep(3/11)(9/11)

伊賀音楽療法研究会メールマガジン9月号(No.122)

JMTSPアメリカ音楽療法だより(68)
皆様はじめまして、9月号を担当させて頂く久保田圭祐と申します。
何を書こうか迷いましたが、今回はアメリカでの精神科の現状と、私が実践した音楽療法のアプローチを少し紹介させて頂こうと思います。先週まで私はカリフォルニア州はパームスプリングスから程近いインディオにある16歳から25歳の青年期クライアントを対象にした精神病院の外来プログラムにてPersonal Services Coordinatorとして働いておりました。2010年1月よりサコ兄さんの下でインターンをさせていただいた後、同系列の病院の現在の職につきました。具体的な職務内容は、クライアントのトリートメントプランに沿ったグループまたは個人セッションの提供(心理教育、レクリエーションスキル、コーピングスキル、金銭管理能力の向上など)、学校など社会保障局など公的機関との仲介、クライアント訪問などでした。一週間に2回のグループセッションを任せられており、その中でグループ音楽療法を行っておりました。トリートメントプランが8個に番号わけされており、1番は社会適正、2番は金銭管理、3番は住宅維持、4番は基本的生活、5番は教育、就職、6番はコミュニケーション 7番は薬物中毒、8番精神病というようになっています。少しここのクライアントたちのバックグラウンドを話すと、ここの土地柄は基本的にスラムですので、貧困、ドラッグ、ギャング抗争、売春というのが日常にあるクライアントがほとんどです。精神病を持っているにも関わらず、満足に治療を受けられないというのが現状です。クライアントの中には性的、身体的虐待を受け、親と死別もしくは勘当といった現実を引きずっています。中には自分の親が首吊り自殺するのを目の前で見てしまったクライアントもいます。そういった影響でPTSDをもっているクライアントもいます。苦しい現実と向き合えないため、または精神病による幻聴、幻覚から逃げたくて、ドラッグ、セックスに走るといった若者たちが約80人在籍します。
そのクライアントたちを、精神科医、結婚家族セラピスト、看護師、ファミリースペシャリスト、ケースマネージャーそして私のポジション(以下PSC)という構成でサポートしています。
クライントは処方箋、セラピー、心理教育の三つ巴の治療を受けることが大前提になってきます。その中の一つでも欠けると治療はうまくいかないのです。まず薬で幻覚、幻聴等の症状を落ち着かせ、セラピストがクライアントの過去などを聞き、それをクライアント自身が受け入れられるように促します。そしてPSCがドクターやセラピストからクライアントの状態を聞き、それによってコーピングスキル、レクリエーションスキル、心理教育などを行います。これが理想の流れで、継続して行われることが必要なのですが、なかなかこの通りには進まないのが現状です。心理教育の中でも今アメリカの精神病院で行われているのがDialectical Behavior Therapy(DBT)という認知行動療法の一つです。(詳しくはこちらをご覧ください。http://kusuriusa.com/mental/mental13.html)もともとは境界型人格障害に対するトリートメントですが、それ以外の精神病にでもアプライできるスキルがあるので幅広く使われています。
私は音楽療法アプローチとして主に、ソングライティング、ドラムサークル、曲分析を行っていました。ソングライティングのゴールは歌詞を書くことによっての感情表現、自分の現在の感情に気づく事。ドラムサークルでは感情の主に怒りのコントロール、グループメンバーの結合を強める。曲分析はテーマに沿った曲を使い、その歌詞の意味や、クライアント自身に重ね合わせる部分を見つけ出すことで問題解決を狙うことがゴールになります。
私はこの曲分析でDBTのアプローチと関連させて実践していました。最近ではDBT音楽療法という本があったり多くの療法士が実践しています。第1のゴールは「物事をありのままに受け入れる、ジャッジしないものの見方を習得する」ことです。
例えば、DBTに実践する前に”Assumptions”(前提)というイントロダクションがあります。その前提の一つで、”People are perfect, whole and complete”(人は皆完璧で、すべて完成されている)という言葉があります。この文の意味としては、「人は皆生まれながらにして現在の人格として完成されている。DNAや生まれた及び育った環境は変えられない。だからあなたはあなたのままで完璧である」ということを前提で言っています。しかし、なかなかそんなことを言われてもすんなり受けいれられる人はいません。クライアントの多数はこの「完璧」という言葉がとても耳障りなようで、すぐさま拒否反応を起こします。そこで私は最近の曲を使ってクライアントの理解しやすいように、Simple Planの “Perfect” やLady Gagaの “Born This Way”を使って説明します。前者の曲を使って、この曲の歌詞では「完璧」とはどういう意味合いで使われているのか、そしてこの曲での「完璧」の意味クライアントが思う「完璧」とは同じものなのかという質問を投げかけます。最終的に「完璧」という意味は人間が作り出しているもので、人は現時点での自分で完成されていると教えます。そして後者の曲を使い、人は生まれながらにしてスーパースターなのだから、前向きにがんばっていこうという風にポジティブ思考を強化するようにしていました。
いつも狙ったようにうまくいくわけではないのですが、良いときはグループに一体感が生まれポジティブな空気が流れているのを肌で感じられました。
長い文を書いてしまいましたが、最後まで読んでくださった方々ありがとうございました。私はまだまだ経験も浅いですがこれからも一人ひとりのクライアントと向き合ってラポートを作り上げていきたいと思っています。もしご意見ご感想などありましたら下記のメールアドレスに送っていただけると幸いです。
最後に、この度震災で被害にあわれた日本の皆様、心よりお見舞い申し上げます。震災時、私は日本にいなかったのですが、千葉に住む家族、山形に住む祖父母そして仙台に住む友人達から震災の様子を聞き、涙が止まらなかったことを鮮明に覚えています。しかし、世界中から日本人の辛抱強さ、冷静さ、他人に対する思いやりという日本の美徳が高く評価されていることをニュースや新聞で読み、改めて日本人としての誇りを感じたと同時に自国のすばらしさを実感しました。日本は震災を通して、世界中に人とつながることの大切さ、支えあうことの必要性、人として生きるとはどういうことかという事を身をもって発信したのだと感じました。今年は節電などで通例より日本は暑いと聞いており、まだ残暑が続くかと思いますが皆様どうか水分補給を忘れずに、くれぐれもお身体に気をつけてお過ごしください。(久保田 圭祐)

[編集後記]
9月9日(金)~11日(日)まで、日本音楽療法学会富山学術大会の会期中です。今回は伊賀音楽療法研究会から2名の演題が採択され、メルマガ発行日の本日、事例発表します。富山大会はかなり盛りだくさんな内容になっており、事例発表・ワークショップ・シンポジウムが同じ時間枠に重なっているため、伊賀から参加する会員たちもどのプログラムにしようか迷っていたようです。研究会仲間の事例発表が決まったものの、ワークショップへの参加者がほとんどで、発表が聞けず残念がっていました。
また、10月には音楽療法ネットワーク三重主催で、稲田雅美先生の講座が開催されます。以下に、三重大学教育学部 根津知佳子准教授による稲田氏の紹介文(音楽療法ネットワーク三重会誌MTニュース)を引用します。
「稲田雅美氏(同志社女子大学教授)は、社会心理学・社会学をベースとした「精神障害と音楽療法」、哲学・倫理学をベースとした「音楽の精神分析学的考察」など、音楽療法と精神分析学をキーワードとし、「芸術と表現病理」について、理論的・実践的な研究をされています。その論旨の展開は、社会学修士や人間・環境学博士としての研究的視座に支えられており、いつも“静かな説得力”を感じます。稲田氏は、日本芸術療法学会、日本音楽心理学音楽療法懇話会を基盤とし、日本集団精神療法学会、日本描画テスト・描画療法学会でご活躍されています。特に、近年は『描画と音楽の統合作用:精神科臨床における治療的意義をめぐって(2008)』『音楽に託す描画:二つの療法のコラボレーション(2009)』など、音楽療法の域を超え、芸術療法の可能性について追究されています。」このように、音楽療法の講演・ワークショップとしては貴重な機会となる先生ですので、お近くの方は是非ご参加ください。

伊賀音楽療法研究会メールマガジン編集室
〒518-0869
三重県伊賀市上野中町2976-1上野ふれあいプラザ3階
伊賀市社会福祉協議会
電話番号 0595-21-5866 FAX番号 0595-26-0002

伊賀音楽療法研究会
http://www.hanzou.or.jp/music/top-page.htm

関連エントリー:
アメリカと日本の音楽療法情報(2011)
http://masaokato.jp/2011/01/19/083555

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