世界の音楽療法の情報 (2014.9.10)

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伊賀音楽療法研究会からのメールマガジンです。(2014.9.10)

「世界の音楽療法の情報」 (2014年 9月10日)
“Information of music therapy in the World” (September 10, 2014)

[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(100)

伊賀音楽療法研究会メールマガジンをご覧の皆様、こんにちは。JMTSPアメリカ音楽療法だより9月号を担当させていただきます、塩川敬子と申します。私は、アメリカ・オレゴン州にあるメリルハースト大学の音楽療法学科にて4年間の過程を修了した後、アーストーンズ音楽療法サービスという会社にてインターンシップを修了しました。大学在学中の実習やボランティア活動、またインターンシップを通して、認知症・重度心身障碍者・精神科・パーキンソン病・自閉症・ホスピス・幼児の早期介入プログラムなど、様々なポピュレーション・セッティングにて、音楽療法に関わらせていただきました。この度、インターンシップ修了に伴い、音楽療法学士またアメリカ認定音楽療法士の資格を取得し、今年の10月より日本国内の病院にて音楽療法士として勤務する予定でおります。アメリカ音楽療法だよりということで、アメリカで音楽療法士になる過程をすべて修了した今、自らのアメリカ生活を振り返って思うことを投稿させていただきます。

在学したメリルハースト大学での音楽療法専科の授業は、経験豊富な音楽療法士が担当していましたが、音楽療法士と一言に言っても、様々な専門性を持つ講師・教員が揃っていました。そのおかげで、音楽療法の数多くの分野・アプローチを学問的にまた実践を通して知ることができ、音楽療法業界全体の魅力を知ることができました。また、心理学・生理学・解剖学・統計学などの関連分野の授業も、教えている教員には、現役の臨床心理士や医師がおり、生徒が知識を体験的・主体的に学んでいけるよう工夫がされていました。たとえば、解剖学の授業では、講義のあとにその日講義した内容に関係する豚の体の部分の解剖をしたりもしました。さらに、メリルハースト大学では、知識を受動的に吸収することは勉学の目標ではなく、受信する情報に細心の注意を払い自らで批判的に評価し、論理性のある自身の考え方を持つこと・効果的に表現することを重視する傾向にありました。そのメリルハースト大学で音楽療法を学べたことは、音楽療法士として、主体的・能動的に自らの知識・技能を深めていく姿勢を形成してくれました。

アメリカ音楽療法協会、AMTA (American Music Therapy Association) からもたくさんの恩恵を受けました。AMTAが作成したカリキュラム要綱には、音楽療法プログラムを卒業する際に身に着けているべき実践的な技術・知識が詳細に記載されており、大学・大学院での養成課程が学問的また実践的に実りのあるものになるようAMTAが保証しています。AMTAが出版する専門分野ごとの教科書は、音楽療法の理論と実践が広く深くカバーされていて、プロフェッショナルとして仕事を始めた後でも何度でも読み返したいほど、価値あるものです。AMTAが制定する倫理規定や実務基準などは熟考されており、音楽療法の専門性と療法士の質を保証しています。AMTAのホームページには、音楽療法の啓蒙に使える説得力のある資料が豊富に取り揃えてあり、ダウンロードして使用することができます。インターンシップを終えた新人セラピストには、割引券やビジネスを始めるための資料が無料で配布されるサービスもあります。何か災害が起きたときは、AMTAがすぐさま被災した地域の会員に連絡を取り、必要な援助を協議し実施します。アメリカで音楽療法を勉強・実践する上で、AMTAの堅実性と創造性を兼ね備えた成熟度には常に感銘を受けてきました。

メリルハースト大学やAMTAの良さに加え、アメリカで音楽療法士を目指したうえで一番ともいえる恩恵は、アメリカの文化です。特に、私が住んでいたオレゴン州ポートランド周辺は、リベラルで自由な雰囲気がありました。音楽療法コミュニティの中では、療法で基本となる「Unconditional Positive Regard: 無条件の肯定的関心」を体現したような先輩療法士たちを中心に、お互いをありのままに尊重し、同じ目標に向かって、建設的に創造的にお互いを高め合うような雰囲気がありました。療法という仕事上、様々な障碍や病気を持ったクライアントさんと出会います。そのチャレンジを改善していこうとするのが療法のゴールではありますが、無条件にまずクライアントさんを肯定し受け入れることで安定した療法的関係性を作り出すことが、ゴールに向かう過程でまず必須だと思います。しかし、渡米前日本での私自身の体験は、日本人の真面目さゆえか、また学力至上主義ゆえか、家庭内や学校では、積極的に褒め合うことよりも欠点を見つけ出すことを優先してしまいがちでした。また、一般的に良いとされる概念が画一的だったようにも思います。こういった習慣が染みつき自分自身を受け入れることができなかった私にとって、オレゴンで、私をありのまま良しとしてくれる仲間に出会い、自分自身を受け入れ、そして相手を受け入れることを学べたことは、セラピストとして必要不可欠な経験だったと思います。

アメリカの大学・AMTA・文化には大変恩恵を受けましたが、一方で、日本人としてアメリカで音楽療法士になるという選択は、多くの困難や不安を伴いました。まず、英語を第二言語として使用し療法士として機能することには、常に不安を感じていましたし、特に精神科でのセッションでは、クライアントさんの言動をもっと深く理解し、療法的に効果的な発言ができればいいのにと、限界を感じました。

また、大学在学中は読み書きの課題に多くの時間を割きつつ、週一度ある実習のためにレパートリーを増やしたり、楽器演奏の技術を向上させたり、またセッションの計画・書類作成など、セラピストとしての実践的な技能を常に成長させていかければなりません。インターンシップは、一日中英語を使って複数のセッションやミーティングをこなし、また帰宅してもセッション準備に大変時間がかかり、ほぼ休みのない生活が続きました。セラピストとしてのセルフケアは大事と頭では理解しながらも、私の場合は結果的に、在学中・インターンシップ中ともに、精神的・体力的にかなり限界に近い生活を送ることとなりました。

日本人としてアメリカで音楽療法士を目指すという難しさは、就職についても表面化しました。私がそもそもアメリカへの留学を決意したのは、アメリカで進んでいる神経学的音楽療法を勉強したいと思ってのことでしたが、私が渡米した当時は、卒業後はアメリカで就職すればいいという程度にしか考えていませんでしたが、実際は、アメリカ国内で収入を得る労働となると、就労ビザの取得は大きな障壁です。また十分に食べていけるような音楽療法士の常勤での就職は、特に私がいたオレゴン州では、かなり稀でした。さらに、日本にいる家族とずっと離れて暮らすことに多くの不安を感じていました。だからといって、日本は日本の風土で培われた音楽療法があると思い、アメリカで資格を取って日本で就職することは、矛盾しているようにも思え先が見えませんでした。渡米した当時は夢にように思えた留学も、その先にある出口については、悩みや不安は絶えませんでした。

就職については、帰国するべきかアメリカに留まるか深く悩んだ末、できれば日本に帰りたいと思うようになったとき、幸運にも日本で常勤音楽療法士として働けることが決まり、この度帰国する運びとなりました。アメリカで音楽療法を勉強し資格取得に至るまでの過程は多くの困難を伴いましたが、その経験は音楽療法の技術・知識を深めるだけにとどまらず、私の今後の人生やセラピストとしての姿勢に大きな影響を与えてくれることとなり、最後には故郷である日本に帰れることになりました。これは、私の努力が及ぶ範囲をはるかに超えた、多くの人々による支援と不思議な巡り合せによるものです。アメリカで音楽療法士になろうと大胆な決断をした若かった自分と、その後巡り合った人々や偶然の幸運に感謝し、これからは私の故郷である日本でクライアントさんのより良い人生のために、少しでもお役に立てるよう努力していく次第です。

以上、私の個人的な経験からではありますが、音楽療法士になるために滞在したアメリカでの生活を振り返った感想を述べさせていただきました。最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。 塩川敬子

[編集後記]
JMTSPアメリカ音楽療法だよりが今月号で記念すべき100回目となりました。アメリカ音楽療法だよりの前身には、岡本悟さんの音楽療法だよりがあったのですが、2005年12月から、海外で活躍する音楽療法士のみなさんから持ち回りで投稿していただく、現在のスタイルになりました。途中、たよりが途絶えるときもありましたが、9年間にわたって、JMTSPのみなさんからの実践報告を掲載させていただき、今回で100回目となったことに感謝申し上げます。(イ)

今月号でご案内した新刊の著者でもある菅田先生による講座が、8月30日伊賀音楽寮法研究会で開催されました。毎年夏休み恒例の講座となっており、今回のテーマは「障がいを持つ人への音楽療法」。身体・精神・知的の三障がいのうち、音楽療法の対象となることの多い知的障がいの方について、多くの時間を取っていただき学びました。先生の実践記録ビデオも拝見できた貴重な機会でした。(ヨ)

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Unconditional positive regard
Unconditional positive regard, a term popularly believed to have been coined by the humanistic psychologist Carl Rogers, is basic acceptance and support of a person regardless of what the person says or does. Rogers believes that unconditional positive regard is essential to healthy development. People who have not been exposed to it may come to see themselves in the negative ways that others have made them feel. Through providing unconditional positive regard, humanistic therapists seek to help their clients accept and take responsibility for themselves.
People also nurture our growth by being accepting—by offering us what Rogers called unconditional positive regard. This is an attitude of grace, an attitude that values us even knowing our failings. It is a profound relief to drop our pretenses, confess our worst feelings, and discover that we are still accepted. In a good marriage, a close family, or an intimate friendship, we are free to be spontaneous without fearing the loss of others’ esteem. (David G. Myers)

関連サイト

American Music Therapy Association
http://www.musictherapy.org/

Japanese Music Therapy Students & Professionals (JMTSP) – Ameba
http://ameblo.jp/jmtsp/

Japanese Music Therapy Student & Professionals
http://www.geocities.jp/jmtsp2004/

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