JMTSP アメリカ音楽療法だより(89)

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伊賀音楽療法研究会から世界音楽療法の最新情報が送られてきた。

伊賀音楽療法研究会メールマガジン8月号(No.145)

[世界音楽療法情報]
JMTSPアメリカ音楽療法だより(89)
 8月のメールマガジンを担当させて頂きます、清水智子と申します。私は、4月末にて、コネチカット州にある老人ホームで7ヶ月のインターンシップを終え、その後、ケーススタディ等を書きあげ、今はCB-MT試験に向けて準備中です。今回は、私のインターンシップ先での出来事を書かせていただきたいと思います。
 私のインターンシップ先は、先にも述べましたように、老人ホームで、予てから私が希望していた分野で、経験豊かな素晴らしいスーパーバイザーと共にインターンができた事は私にとって忘れ難い、そして有意義な時間となりました。
 しかし、ここで過ごした7ヶ月間で、音楽療法を受ける10人ものクライエントが亡くなられました。私のスーパーバイザーは特に高齢者の為の音楽療法に長年携わってこられ、インターン生も積極的に受け入れている方だったのですが、そんな彼女が「半年余りでこれだけ多くのクライエントとの死別を経験する、老人ホームで働くインターンシップ生は未だかつて見た事がない」とおっしゃる程、多くの方が亡くなられました。
 勿論、私自身、老人ホームという場所である限り、ある程度クライエントとのお別れというものは覚悟していましたが、朝の申し送りの際、スーパーバイザーから「悪い知らせがある」と言われる度に、不安から心拍数が早くなるのを感じていました。特にセラピストとクライエントとして、良い人間関係が築けていた方が亡くなるということは非常に悲しい出来事でした。
 これは老人ホームに限りませんが、余命が短いと判断され、ホスピス緩和ケアに切り替えられ、徐々に病状が悪化し、亡くなられる方の他に、前日、もしくは数日前までお元気だった方が、急に亡くなられるというケースがあります。特に、急死というのは、こちらの心構えも出来ぬまま、亡くなられるという事ですから、私のショックも大きかったのを覚えています。
 しかし、ここで体験した悲しみやショックの他に、10人の死を通して、セラピストとして大切なことに気付かされ、学ばせて頂いたのは確かです。その中で、最も印象に残っている出来事をご紹介したいと思います。
 長期ケアユニットに入居されていた99歳の白人男性Aさんは、抑鬱状態が続き、アクティビティにはあまり参加せず、一日中、部屋に閉じこもりがちでした。表情も暗く、物事は忘れがちでしたが、しっかりとアイコンタクト、また、言語的コミュニケーションが取れ、質問に対して適切な答えを返すことができる方でした。私が彼の部屋を訪れると、彼は大抵、電気を消した薄暗い部屋で、車いすに座ったまま寝ておられ、「ご機嫌いかがですか」と尋ねると、「今日は気分が悪い」もしくは、「気分が落ちている」と答えられました。しかし、音楽はお好きだったようで、私の訪問を断ることはありませんでした。
 Aさんは、始めの方、自主的に私とともに歌うことはほとんどせず、彼の歌うところだけ、スペースを空けるとその部分だけを歌う、というように、私の音楽的または言語的キューがない限り、歌われることはありませんでした。しかし、あるセッションで私が思い切って、「Aさんの助けが必要です。一緒に歌いませんか。」と言うと、首を大きく横に振り、”No, I have a frog in my throat”(声が枯れていて歌いたくない)とおっしゃいました。話を伺うと、昔は兄弟に静かにしてほしいと言われる程、歌をうたうことや、口笛を吹くことが大好きだったそうです。しかし、歳を取り、昔のように綺麗に歌うことも口笛を吹く事もできなくなり、それが苦痛だと話されました。他のケアワーカーの話によると、彼は少し昔まで、パソコンも使いこなし、アクティビティにもよく参加していたとのこと。しかし、歳とともに体力が落ち、できないことが増え、もしかしたら彼は、そんな自分自身を受け入れることができないのではないかと感じました。私は、彼が言ったそのままを歌にし、私は彼のありのままを受け止めていることを伝え、彼も自分自身を受け止められるきっかけにならないだろうかと考えました。
 私は、持っていたギターで少しユーモアも交え、マイナーブルースコードを用いて”I have a frog in my throat”と歌い始めると、彼はクスクスと笑い出し、ギターのストラミングに合わせて、意図的に裏返った声やガラガラ声を出し始めました。その後、私は続けて”But, I don’t care because I love singing”(でも気にしない。なぜなら歌うことが好きだから。)と付け加えると、笑顔で、”Yes, I don’t care. Who cares.”(そうだ、気にしない。誰も気にしない。)と返されました。このやり取りを5分ほど繰り返し、即興は終わったのですが、彼は今まで見た事のない笑顔で「幸せな気持ちだ」とおっしゃいました。この事がきっかけで彼は、私と一緒に歌うことを拒否しなくなっていきました。また、彼との音楽療法を通し、私にとって何が一番嬉しかったかというと、彼は、たびたび、「100歳まで生きたい」と口にするようになったことでした。抑鬱状態にある彼が、このように「~したい」「~に挑戦したい」という前向きな答え、明確な目標を言うことに、私は喜びを感じていました。
 しかし、彼とのお別れは突然で、スーパーバイザーから彼が亡くなったという、緊急電話がかかって来たときは、頭が真っ白になってしまいました。なぜなら、亡くなる一週間前のセッションでも笑顔で「次の誕生日までは生きたい」とおっしゃっていたからでした。私は、動揺している心を鎮めようと自分のオフィスに戻り、その時の正直な気持ちを書き綴っていたのですが、ふと、私が昔、三重県のとあるホスピスでボランティアをさせていただいた時に出会った方を思い出しました。
 その方は、40代の末期の肺癌男性だったのですが、2週間のボランティア期間、私とも一切お話することなく、むしろ他人を拒絶されているようでした。その方が、最終日、私が帰り支度をしていると、近寄って来られ、「医療福祉に携わる仕事を目指すあなたに言いたい事がある。」とお話され始めました。その方は、「よく、”また来るね”と言って、もう二度と来ない人がいる。でも、ここの人は、そんな他愛もない言葉を信じてずっと待っている。だから、ここではできない約束は簡単にして欲しくないし、自分の行動に責任が持てる医療福祉従事者になってもらいたい。」そう、おっしゃいました。彼は、医療福祉従事者が患者さんと、真摯に向き合うことの重要性をおっしゃっていたのです。
 クライエントと「真摯に向き合う」ということは、セラピストとして至極当然のことなのでしょうが、この言葉を思い出し、私は、はっとしました。結果的にAさんは、100歳を目前にして亡くなってしまい、彼の目標は達成されませんでしたが、彼が目標を達成できなかった事や、亡くなってしまった事ばかりに目を向けるのではなく、Aさんが生きている間、私が彼をありのままを受け入れ、いかに真摯に向き合い、彼の気持ちを汲み取り、そして、彼の人生をより良いものにする為にサポートしてきたかどうか、が重要なのだ、と気付かされました。また、スーパーバイザーは、私に、「音楽療法を通して、Aさんに喜びや幸せ、または希望を与えられたのだから、それでいい。」と慰めて下さいました。実際は、私自身も彼から喜びや幸せをもらっていましたし、また、このような貴重な体験もさせて頂きました。音楽療法士とクライエントは相互関係で成り立っているのだと改めて感じる出来事でもありました。非常に基本的な事ですが、クライエントと「真摯」に向き合う姿勢、私はこの先、セラピストをしていく上で大切にしていきたいと思いました。

拙い文章ですが、最後までお読み下さりありがとうございました。何か質問や感想等がございましたら、下のアドレスまでお送りください。
Tomokototomato25@hotmail.com 清水智子

[編集後記]
 8月4日、伊賀音楽療法研究会のH25年度第2回養成講座が開催されました。講師は毎年夏の講座をお願いしている菅田文子先生でした。午前中に実践事例報告会、午後は公開養成講座として「障がい児・者への音楽療法」のテーマでご講義いただきました。菅田先生のお話はいつも明快でわかりやすく、初めての受講者にも好評です。ユーモアたっぷりの中にも、私たちが実践を続ける上で貴重なご示唆をたくさんいただきました。次回は9月29日(日)、講師は伊沢先生です。1回のみの参加も可能ですので、ご興味のある方はぜひお申込みください。
 伊賀音楽療法研究会フェイスブックページには、各回の講座の様子をアップしています。そちらもチェックしてくださいね。

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