小沼愛子の今回のテーマ「音楽療法の仕事の面接について」

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伊賀音楽療法研究会(三重県伊賀市)から「日本と世界の音楽療法情報」が送られてきました。

伊賀音楽療法研究会メールマガジン 2013.1.10
伊賀音楽療法研究会メールマガジン1月号(No.138)

[世界音楽療法情報]

JMTSPアメリカ音楽療法だより(82)
皆様、新年明けましておめでとうございます。今月のJMTSP音楽療法便りは、マサチューセッツ州ボストン市より、小沼愛子が担当させていただいています。「音楽療法の仕事の面接について」が今回のテーマです。

昨年末に仕事の面接を受ける機会があり、それについて考えている際にふと思ったのは、音楽療法士という仕事は、面接を受ける機会の比較的多い職業ではないか、ということです。実際に、仕事やインターンの面接を受ける、もしくは受けた、と言っている音楽療法士・学生を頻繁に見かけますし、特に昨年は、色々な面接の話を音楽療法仲間たちから聞き続けた一年だったと言っても過言ではありません。

今回私が受けた面接は、ごく小さな仕事の為のものでした。高次脳機能障害を持つ方々のグループ音楽療法を週に1~2つ受け持つ、というものです。ただし、この会社は現在音楽療法のプログラムを拡張しているため、序々に高齢者施設や特別支援学級、音楽学校での臨床や教育などでの仕事も加わってくる、という設定です。面接官は、この地域の音楽療法士なら皆名前を知っているようなベテラン音楽療法士で、大きな団体のまとめ役や複数の音楽療法プログラムの責任者として、地域ベースでの音楽療法発展に長年貢献してきた方です。彼女の質問はなかなか厳しいよ、と聞いていたせいもあって、かなり緊張して臨んだ面接でした。

どのような仕事でも、面接の定石、というものがあると思います。結果から言うと、今回私が受けた面接は、ほぼ「定石通り」なものでした。しかし、自分の知る限りでは、定石からはほど遠いような面接を受けた音楽療法士もいて、同じような仕事の為の面接なのに、こんなに違いがあるなんて面白い、と思ったことが何度もあります。これは場所が日本でもアメリカでも関係ない現象のようですが、アメリカでは比較的、「お決まりの質問」をされることが多い傾向があるように、今まで見聞きしたものを総合すると感じます。

アメリカの音楽療法教育にはインターン制度が組み込まれており、インターンの為の面接も、仕事の面接時にも、仕事の面接と似たような質問をされることがごく一般的です。その中には、「どうしてこの会社・施設でインターンをしたいと思うのか」「インターン中に何を成し遂げたいと思っているか」「あなたの長所と短所は?」など、他業種の面接でもよくありそうな一般的な質問もあれば、「音楽療法とは何か」「あなたの音楽療法の哲学はどんなものか」「あなたの音楽療法のアプロ?チはどんなものか」など、音楽療法関連の質問も多いのが通例です。それに加えて、「このアプローチについて説明して下さい」「この疾患にはどんな特徴があるか説明して下さい」「クライエントがこのような行動をした時あなたならどうしますか」「このグループの為にどんな音楽やアクティビティーを使ってセッションを行いますか?」など、特定の事柄の説明や特定の設定内でどうセッションをリードするか、ということも訊かれたりします。インターンの為の面接の大多数は、プロの音楽療法士が音楽療法の学生を面接する、という形が大多数ですから、音楽療法そのものについての話が多くなるのは必然的だと思います。

その一方、仕事の面接となれば、それ以外の事も質問されてしかるべし、ではないでしょうか。面接官も音楽療法士であるとは限らず、その会社/施設の他業種の人であることもよくあることなようです。その組織内でどう機能出来るか、ということがインターンの時よりもはるかに重要視される事柄であると思います。

今回の面接では、仕事の内容が多岐に渡るせいもあってか、かなり多角的に審査されている感じを受けました。「この人はどのような経験をしてきて人なのか、物事をどう捉えどう行動するのか、どう他人とコミュニケーションを取るのか、臨床士・教育者として何が出来る音楽療法士なのか、即戦力があるのか」などを見極めようとしているのが質問の内容から伺えました。先に挙げたような質問の他には、「問題が発生した時や難しい事に直面した時の対応」に関することを何度か違った形で訊かれました。例えば、「あなたが過去に新しい音楽療法のプログラムを立ち上げて定着させるまでの過程で、一番難しかったことは何だったか、それにどう対応したか」という感じです。このような、「問題解決力」についての質問も、アメリカの面接ではごく一般的であると思います。それに加えて、近年強い傾向である「テクノロジーをどう臨床に使うか、あなたに使えるテクノロジーは何か」という質問、また、アメリカでは私は外国人となるため、「音楽療法士として文化の違いについてどう考えているか・対応するか」という質問もありました。

面接官の質問に答えつつ、音楽療法・教育についての考え方について話し合ううちに、あっという間に一時間が経過していました。その後、演奏と歌の試験があり、お互いのスケジュールの確認、そして職場を一通り案内していただき、すべての過程が終了しました。厳しい、と聞いていた面接は終始和やかな雰囲気で進み、面接官の態度は常に友好的でした。しかし、ムードは柔らかいものの、質問の内容は非常に実務的かつ実践的で鋭い質問が多く、常に話の中心からずれない面接官のプロフェッショナルぶりには、感嘆した、と言っても大げさではないくらいです。その一方、最後の最後、演奏力チェックの際に、「信じられないかもしれないけれど、演奏も歌もほとんで出来ない人がこの仕事の面接を受けにくることがあるんですよ。」と、ため息まじりに本音を漏らされたような瞬間もあり、面接する側の難しさを垣間みた気がしました。仕事力や人柄のみではく、履歴書など紙の上の情報だけでは測ることが出来ない「音楽力」をチェックをすることも、音楽療法の面接では大切な作業だということです。

音楽療法士という職業においては、新卒時に就職試験を受けたのみで一生同じ会社で常勤として働く、という形は比較的少ないと思います。反対に、小さな仕事をいくつか掛け持っている人は比較的多いのではないかと思います。そう考えると、「面接」というものは、この職業について回るアイテムのひとつ、という気がしてきます。アメリカではインターンの為に、また、大学によっては音楽療法学部に入る為に、そして、日本では日本音楽療法学会の認定試験の為に、と、仕事に辿り着く過程でも面接の機会があるのが現状ですから、自分の周りで頻繁に「面接」という言葉を訊くのは自然な成り行きなのだと、今更ながらに思います。

さて、面接やオーディション、発表や講義などの後に自分に必ず起こる現象は、「あの場面ではああ言えばよかった。こんな風にも言えたのに。もっと上手く説明・演奏できたのに。」と、自らの言動をいちいち思い出しては、後悔したり恥ずかしくなったりすることです。しかし、後悔や反省だけしていてもあまり建設的ではないので、それを次の機会に向けて活かすべく考えるようにしています。この作業の連続で、少しずつ「場慣れ」していく部分は決して小さくないとも思います。今回の面接を振り返ってみると、そこで問われたすべての事柄が、自分が音楽療法士として働く上で答えられなくてはならないものばかりであったと痛感するばかりで、それを思いださせてくれた面接官に感謝すらしています。そして、どの質問にも黙り込むことなくそれなりに答えることが出来たのは、普段から音楽療法について音楽療法仲間達と意見交換する機会があるお陰であると断言でき、音楽療法について一緒に語り合ってくれる友人や同僚達にも感謝の気持ちで一杯です。この過程なしにこの面接が上手くいくことはなかったと感じています。

この記事をお読みになっている方々の中にも、近い将来に面接を受ける、という方がいらっしゃるかもしれません。「面接」というと、「こちらが雇ってもらう立場」と考えて下出に出過ぎてしまうこともよくあると思います。しかし、面接を受ける側も、その会社や施設が自分に合った場所なのかどうか少しでも多くのアイディアを得るべく、落ち着いて面接する側の仕事への姿勢や人への対応を見極めることが大切なのではないかと思います。一緒に働いていく上でやはり相性は大切で、これはインターンのレベルでも同じだと考えています。

私のこの面接への感想は、「反省点は多くあるけれど、とても楽しかった」というものです。面接官に恵まれたことが大きな理由であると思いますが、大好きな音楽療法や音楽教育の話を真剣にしていたから、ということも挙げられます。私の「ああ言えばよかった・こうすれば良かった現象」は簡単には収まりそうにありませんが、少なくとも、面接の過程を楽しめたことは、昨年の締めくくりとして満足いくものでした。この経験を将来に活かし、今年もゆっくり前進していければ、と考えています。

最後になりましたが、2013年が皆様にとって素晴らしい年となりますようお祈り申し上げます。この記事へのご意見ご感想は、aonuma@mtkakehashi.comまでメールにてよろしくお願い致します。ご拝読いただきありがとうございました。

[編集後記]
1月20日、音楽療法士(補)の試験が東京・大阪同日開催されます。3月の面接試験を経て、この春には新認定制度による日本音楽療法学会認定音楽療法士が誕生します。伊賀からも何名か誕生すればいいのになぁ!

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